2007年09月17日

first kaleidscope

ピシッ、と熱いガラスに冷水を注ぎ込んで割れたかのような音。
わだかまっていた闇に罅が入っていく。
ガシャン、とグラスを落としたかのような音が響き渡る。
闇は、形容するならば黒曜石が砕けたかのように、散らされてしまった。

荒い呼吸の音。凍えて震えるエリューシア。
弱々しく凍てついた体を抱く。だが、その眼は燃え盛る炎のように血走っていた。

「殺せ、わが傀儡!」

絶叫するエリューシア。その呼びかけに答えるように歩み始める夢月。
しかし、その動きは鈍く…何かに抵抗してるかのように見える。
間に合わないかもしれない、でも…やらなければいけない。
再びきつく肺を締め上げ、大きく息を吸う。

「分の魂、厘の命
毛の心、絲の想い
忽の哀、繊の音奏で
微の歓喜、沙の歌が表す
塵の言の葉、埃の嘆きを産み
渺の愛、漠の悲劇と共にに・・・」

鋭く尖った感触、衝撃はなかった。
痛みはなく、焼かれるような熱さを感じる。
まるで腹から生えたかのように、穿ち抜かれた槍。
口の中に鉄の味が広がる。
振り返ると、おびえて震える夢月がいた。
あやすかのように、優しく微笑みかける。

「・・・あり
模糊掴めず…逡巡見失う
須臾…笑いて……瞬息……怒り
弾…指……問い…て…刹那…迷い、六徳…祈る……」

血と共に絶え絶えに呪文を吐き出す。
次から次へと溢れてくる血液。
傷が焼けるように熱いのに、冷えていく体。

「縛って虚、裂いて空、
刻んで清、砕いて浄
源まで辿り阿頼耶に至り
此岸と彼岸の扉と成す」

いつ途切れてもおかしくないはずの意識。
考えるまでもなく致命傷だ。
それでも唱える、力強く。

「馬鹿な…何故死なない。何故諦めない!
嫌だ、嫌だ。お前たちがあの人にしたように
お前たちすべてを、呪って、焼いて、焦がして、燃やして
抉って、潰して、折って、そいで、削って、刺して、斬って
凍らせて、溶かして、殺して、殺しつくして後悔させるまで
呪って、焼いて、焦がして、燃やして
抉って、潰して、折って、そいで、削って、刺して、斬って
凍らせて、溶かして、殺して殺して殺しつくしてやる!」

うわごとのように繰り返すエリューシア。
同情する価値などない。それでも哀れみながら…終わりにするために呪文の末尾を唱える。

「  始  点  炎  獄
ライ・キ・ペリア・イルハ・ドルク」

母が、微笑んだような気がした。
収縮を始める空間に向かって、微笑み返す。
先ほどとは逆に、光が一点に向かって集まっていく。
眼が痛くなるほどの強い強い光。
むせ返る熱気に力を奪われ、倒れこんだ―
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2007年09月13日

I'm waiting for you

せめて、笑おう。
母の想いに応えるため。
かつて謡った、どの歌よりも美しく響くように想いを込めて。

「一の善、十の悪
百の友、千の仇
万の命捧げ億の願い叶え
兆の希望を京の絶望が砕く
垓惑いて禾予の夜を越え
穣望みて溝失い、澗呪って正嘆く
出会いて載、連なって極
交差して恒河沙、別れて阿僧祇
数多の運命乗り越え、果ては那由多の滅び
始まりは鎖、終わりは楔
唯一なる扉開きて必滅の道歩まん
  永  久  氷  棺
ル・アルク・フェリア・ラス・エド」

扉が、開く。終焉への扉が。
闇が、絡みつくようにエリューシアを飲み込んでゆく。
何事かを叫ぶが、声は届く前に闇に飲み込まれていく。
もがく指先すら飲み込み、終焉への扉が閉じる。
魂すら凍てつかせる寒さと、
凍りついた心でさえ粉々にしてしまう寂しさ。
すべての物質が滅び、すべての法則が無意味なってしまう刻の彼方へ―
posted by アルフィール at 19:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

2007年09月07日

この手を伸ばせば―

「あっ・・・。」

母の躯に深く、突き刺さる刃。聞こえたのは悲鳴ではなく、つぶやきのように小さな声。
刺したダガーを引き抜かずに、そのまま後退する。

「馬鹿・・・な。何故…抜け出せない・・・?」

狼狽した様子のエリューシア。
満足に立つことすら出来ずに座り込む。

「愚かね…子を思う母の気持ちほど強いものはないのよ?」

まるで別人のように纏う雰囲気が変わる。
実際に、違うのだろう。懐かしい…幼いころの記憶が呼び覚まされる。
そう、それは母のものだった。

「フィール…。この者の魂ごと…私の躯を滅ぼしなさい…。
貴方には…辛い思いばかりさせてしまって…。
でも、出来るわよね。あまり長くは持ちそうもないから…早く。」

告げる母の口調は、何処か哀しげでとても穏やかだった。

「はい、お母様…。さようなら、ごめんなさい。」

哀しいはずなのに、涙は出ない。
今一度、大きく息を吸い込む。別れはもう告げたのだから―
posted by アルフィール at 11:51| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

2007年09月04日

dreaming of love

濃密な死の気配、忍び寄る死神の足音、遠くなっていく意識。
気力の限りを尽くし、末期の息となるはずの吐息で、謡う―

「星の囁き、月の涙、捧ぐは暁の目覚めに。
冷たい空の色、眠るにはまだ早い…紡ぎなさい、貴方の物語を。」

かつてないほど、明瞭になっていく意識。
一瞬一瞬が絵画を眺めているのような感覚をおぼえる。

駆け出すと同時に落ちていたダガーを蹴り上げ、拾う。
エリューシアの驚愕に見開かれた顔。
いつの間にか起き上がっていた夢月が、進攻を阻むべく槍を繰り出してくる。
が、柄を踏みつけ飛び上がり、更に加速する。

もう少し、もう少しで長かった因縁も終わりになる。
吐息が触れ合うほどの距離。本当ならば、誰かを好きになる距離。
その距離で、愛しい人を殺すのだ―
posted by アルフィール at 12:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

2007年08月30日

籟・來・也―

一度たりとも誰かに魔法で劣るという経験は無かった。
混乱と、恥辱と―

いつの間にか地面が近づいている。叩きつけられればただではすまない。
渾身の力を込めて、羽ばたく。多少バランスを崩したが無傷で降り立つことが出来た。

どうすればいい?と、自問を繰り返す。
再びエリューシアが詩を紡ごうとするのが見える。
迷っている暇などない、自分に出来ることをするしかない。

「蕾の眠り、花弁の色、伝うは春の香り。
歌いましょう、祈りを込めて。永久なる安息を求めて。」

エリューシアが詠う。
初めて重なる、かつての母の姿と―
posted by アルフィール at 21:08| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

2007年08月28日

永遠に葬れ―

諦めるわけにはいかない。
悲鳴を上げる体を軋ませて、体勢を立て直し距離をとる。

エリューシアが何を仕掛けてくるかわからない以上、あまり時間をかけるわけにも行かない。
右腕を振り上げ、ダガーを投擲し、同時に夢月に向かって駆け出す。

穂先でダガーを弾き、弾いた勢いでそのまま石突で払ってくる。
が、こちらのほうが速い。
左膝が鳩尾に突き刺さり、体をくの字に折り曲げる夢月。
崩れ落ちていく体を支え、ゆっくりと床に寝かせる。

まだ余裕の笑みを浮かべているエリューシア。
二人で仕掛けてくれば、勝てなかったはずなのに…そうしなかった。
何か意図があるのだろうが、構ってはいられない。

きつく肺を締めて、息を吐き出す。
息を吸う半呼吸の間に術式をくみ上げ、呪文とともに再び息を吐き出す。

「其は泡沫なる世界への賛歌
彼岸と此岸をつなぎ、永劫の昼と永久の夜をつなぐもの
暁と黄昏を歌い、生者と死者の言の葉を紡ぐ
嗤い、怒り、嘆き、泣き、恐れる
我は汝に安息を与え、其を調和へ導かん
   終   幕
アル・ク・ト・ファレ」

世界の移り変わりを表す、魔法―

合せるように詩を解き放つエリューシア。

「我は神の欠片。世界を紡ぐ契約によって
この地の精霊に命ず、汝が身を捧げよ。」

一瞬の拮抗、撒き散らされる破滅。
純白の光に包まれ、非現実的な浮遊感とともに
高く高く、弾き飛ばされていく―
posted by アルフィール at 20:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

2007年08月26日

Yellow Moon

三者が対峙する。
夢月が構えるのは、洗練された美しい槍。
あまり実戦向けとは言いがたいものだったが、見かけなど如何様にでも取り繕えるものでしかない。
母、いやエリューシアは、構えず不敵に微笑むだけ。

手に携えたダガーを逆手に持ち帰る。
先に仕掛けてきたのは、当然のことながら夢月だった。
一閃。そうとしか形容できない一撃。
かわすことが出来たのは、幸運なのか、はたまたそれ以外の何かなのか。
息をつくまもなく、石突での連激を繰り出してくる。

かわせない、そう判断して右のダガーを槍の柄にたたきつける。
一度たりとも力ではかなうことのなかった相手。
技巧も、こちらには積み重ねがあるとはいえ…まだ及んでいない。

右手がしびれ、かすっただけだというのに衝撃に身悶えしそうになる。
まだ、足りない…。足りなかった―
posted by アルフィール at 18:08| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

2007年08月22日

Rusty Rail

「終わらせましょう…何もかも…」

口から出たのは、そんなそっけない一言。
言うはずだった言葉は浮かんでは消えていく。
溢れる想いも、秘めてきた哀しみも、抱えてきた怒りも…
すべてが混ざり合って何一つ、言葉にならないままで。
そんななか、ひとつだけ言葉に出来た一言。

「つれないのね…体だけとはいえもう少し喜んだらどう?」

母の口から出た問いかけ。
記憶にあるとおりなのは表情だけで、口調も、纏う雰囲気も、何もかもが違う、母の姿をした別のもの。
姿が同じだというのに、何よりも断絶した印象をうける。

出来たのは首を振ることだけ。
言葉に対する拒絶なのか、あるいは感じたことに対する拒絶なのか。
自分さえ理解できずに、微かな身振りで示す。

「まぁ良いでしょう。望むならあなたの終わりを始めてあげる。
私は、私の名は…奇跡使い『エリューシア』
引導を渡す相手には名乗ることにしているの。覚悟は良いかしら?」

まるでそれが自分への死刑宣告のように告げてくる。
いや、実際そうなのだろう。

戦いの火蓋は、その名乗りで切って落とされた―
posted by アルフィール at 01:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

2007年08月18日

廻り道―

鼓動が早くなっていく。
伝えることがたくさんあったはずなのに言葉が出ない―

そもそも、彼女の名前すら知らない。
それは、とても哀しいことのような気がした。
たとえ、それが憎むべき相手でも。

庭園の片隅のテーブルに二人は居た。
記憶にある姿そのままで、記憶にあるとおりの微笑を浮かべて。

目から熱いものがこぼれる。
喜びも、哀しみも失って残ったのは怒りだけだと思っていたのに・・・。
涙は枯れたはずだと思っていた―

溢れる涙を拭う事もせず、詰まっていた言葉を吐き出した。
posted by アルフィール at 23:36| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

2007年06月07日

今宵エデンの片隅で―

歩んで、歩んで、歩み続けて
たどり着いた道の果ては、荘厳で優美な、高い高い塔―

罪を刻み付けるかのように、一段一段階段を登っていく。
無意味なことでしかない、でも贖罪など結局は無意味なことでしかない―

過去は無かったことにはできない、できるのは精精埋め合わせでしかない。
現在は過去へと歩むことはできないのだから―

幾段登っただろうか、もはや時間の感覚などとうに失せてしまった。
不思議と疲労はしなかった、感じなくなっただけかもしれないが。

地上を遥かに見下ろす高み。
この高度にあってなお美しく咲き誇る花。
淡い魔法の光に包まれて、本当に楽園のように感じる。
しかし楽園など所詮作り物でしかない。
だからとても作り物じみた場所。

そんな空中庭園の片隅に、二人はいた。

安息のために戦うこと、揺らぐ正義のために戦うこと、
形が無い、曖昧なものために戦う。

歴史は勝者と、その後継者が決めるものだ。
だから、正しいかと問うことに意味は無い。
そんな…意味がない、空っぽのもののために、
そして愛憎の行方に決着をつけるべく語りかける。
母に、想い人に、仇に―

二百余年の永い物語の決着は、すぐにやってくる。
だが、結末は隠されて黙するのみとなろう―
posted by アルフィール at 19:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

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